"キフォティラピア・フロントーサ"
"Cyphotilapia frontosa"
パワーに満ち溢れていた時期の"フロントーサ" オス同士の示威行動
2019年に2000ー2002年頃の画像を追加しました。
画像があるのは飼育4年を経た2000年頃から。幼魚期の画像はありません。すぐ上の幼魚の画像は繁殖個体(親魚は上の画像)です。
2003年Cyphotilapia frontosaはC. frontosaとC. gibberosaの2種に分けられました。C. gibberosaの記載論文
Tetsumi Takahashi and Kazuhiro Nakaya
New Species of Cyphotilapia (Perciformes: Cichlidae) from Lake Tanganyika, Africa
Copeia: Vol. 2003, No. 4, pp. 824–832. ("Copeia"と言う学術雑誌の2003年巻4号824-832ページ)
のabstract(要旨)によれば、分類の決め手は上下の側線(lateral line)の間の鱗の列数で、
C. frontosa: 湖の北部に分布、側線間の鱗列数が2
C. gibberosa: 湖の南部に分布、側線間の鱗列数が3
湖北部の側線間鱗列数2の集団には6本バンドの個体群と7本バンドの個体群があり、C. frontosaのタイプ標本は7本バンド。
6本バンドの個体群がこれと同種か異種かは調査中なので現段階では(特にヨーロッパのサイトで)sp.扱いされることが多い。
観賞魚の世界で使われる産地名で言うと、
キゴマ:Cyphotilapia frontosa 側線間鱗列数2、バンド7本
ブルンディ:Cyphotilapia sp. "Nord" (sp. "North") 側線間鱗列数2、バンド6本
ザンビア、ムピンブエなど:Cyphotilapia gibberosa 側線間鱗列数3、バンド6本
と、なると思います。アクアリウムの流通名としては暫く「フロントーサ」が使われるのではないでしょうか。(その後、月刊アクアライフ誌2006年3月号アクアQ&AのページにC. gibberosaを記載された先生による解説が掲載されました。詳しくはアクアライフ誌を参照して下さい。)
このページで紹介している「フロントーサ」はアフリカン・シクリッド専門店ではなく普通の熱帯魚店で安価購入したものなので、東南アジア・ブリードと思われますが、これらをよく見ると少しややこしい問題が起こります。
Aは最小のメス、Bは2番目に大きいオス、Cはコブが大きい方のオスです。黄色は側線の位置、水色は2列の鱗を示します。そして問題は、ピンクで示した部分的に現れる小さい鱗の列です。これがなければCyphotilapia sp. "Nord"、他の2列と同等にしっかりしていればC. gibberosaとなりますが、Aでは1枚だけ、Bでは5枚、Cではかなりの数の数の小さい鱗が割り込むように並んでいます。ブルンディとされる個体の写真を数多く見てみると、奇麗に2列の個体もある一方でかなりの個体でこのような鱗の乱れが見られます。これはどういうことなのでしょうか。可能性として、
1)天然下でも2列の個体群と3列の個体群の間にこのような個体群がある。
2)繁殖時の環境(水質等)による異常。
3)交雑(Cyphotilapia gibberosa X Cyphotilapia sp. "Nord")
などが考えられるのではないでしょうか。
6年目のオス(♂1)。飼育開始は1996年5月で約4cmから。右の写真は照明が他と異なります。
メス(♀1)。飼育6年目。全長約23cm。
別のメス(♀2)。飼育6年目。全長約17cm。上の個体より小さいですが、産卵回数、産卵数ともこちらの方が多いです。
上とは別のオス(♂2)、7年目の撮影。全長約30cm。左右とも同一。
上と同一個体(♂2)。
オス(♂1)。7年目、全長約30cm。右は5年目に撮影。
4cmから飼育して8年目。
9年目に突入、まだ激しく闘争します。
満10年(♂1)。老化が進んでいます。水槽のアクリルも経年劣化で透明感が落ちています。
満11年(♂1)。
満12年(♂1)。
満13年(♂1)。
飼育満14年のオス(♂1)。全長30cm以上。食欲は旺盛です。とはいえ、老魚に特有の腰の落ちた姿勢のため、浮上性のエサしか食べなくなっています。健康なフロントーサには沈下性のエサを与えていました。
満15年(♂1)。かなり衰弱しています。
(左)繁殖させた幼魚の群れ。誕生後約1年。(右)親魚の口から吐かせて数日の幼魚。約2cm。
産卵は3年目から始まりました。始めは春から初夏にかけてのみ産卵していましたが、その後は年中産卵します。産卵は未明から早朝に行われるらしく、現場は見たことがありません。底砂は浅くても何とかなるようです。むやみに殖やしても色々と問題があるので、大抵は産卵したその日に親魚の口から卵を吐かせてしまいます。一生の間に20回ほど産卵しました。産卵数は最初は少なく20個程度ですが徐々に増えて、最多産卵数は60個。
フロントーサの飼育と繁殖
成長
全長3−4cmの幼魚から飼育した場合、成長が速いと1年で12−13cm、2年で20cm弱になります。遅いとその半分位だと思います。一般に成長の速いものはオスで、条件が良ければ5−6年で30cmに達しますが、最終的にそこまで成長しないこともあるようです。メスは25cm程度にしかならないようです。成長が速い個体はコブが大きく盛り上がるような気がします。極端に成長の遅い個体は、5−6年経っても15cmにも満たないこともありますが、それでも繁殖は可能なようです。
繁殖
生後2年以上経つと繁殖する可能性が出てきます。抱卵したメスはお腹の膨らみで判ると思います。オス・メスの見分け方としては、オスの方が体が大きい、コブが大きい、ヒレが長い、体色が(少し)青い、メスは真横から見て円い感じ、などです。どれも僅かな違いで判りにくいのですが、成長が進むに連れはっきりしてきます。また、群で飼育していると個体間で比較ができ、見分けやすいと思います。
繁殖は季節的には春から夏が多いと思いますが、それ以外にも繁殖します。エビなどの天然エサを与えた方が産卵しやすくなると思いますが、配合飼料のみで飼育している時期にも産卵します。
私は残念ながら産卵の現場を見たことがないのですが、砂を掘った窪みを利用して産卵・放精し、メスが卵を咥えるそうです。底砂は浅くても何とかなるようです。給餌のときメスが口を開かないようでしたら、卵を咥えている可能性がありますので注意して見て下さい。初めのうちは産卵の数日後に卵を食べてしまうことがありますが、何度か繰返すうちに無事幼魚まで育つようになります。
マウスブルーダーの繁殖なのですから稚魚が親魚の口を出たり入ったりする光景を見たいものですが、残念ながらフロントーサは自然下でも一度稚魚を吐いたらそれっきりだそうです。水槽内に他魚がいる場合、親魚はなかなか稚魚を吐こうとせず、稚魚が出て来たときにはガリガリに痩せてしまっていることがあります。それでも大切に扱えば育ちますが、吐かれた直後に他魚に食われる危険性もありますので、産卵後4週間をめどに稚魚を強制的に吐かせた方が良いと思います。親魚を両手でつかみ頭を水に浸け両頬か咽の辺りを軽く押すと口を開けてくれることもありますが、これでだめなら指先を軽く口にねじ込み下顎を優しくこじ開けます。パラパラと稚魚が出て来ますが、全部出たことを確認して親魚を水槽に戻します。
吐かせるのが早すぎると稚魚はまだヨークサックを付けていますが、それでもエサは食べるようです。配合飼料のみでも育ちますが、ここはやはりブラインシュリンプも与えたほうが成長が良いようです。産仔数は始めのうちは少なく十数匹程度のことが多いと思いますが、回を重ねるごとに多くなり50匹以上生まれることもあるようです。
全ての仔魚を飼い切ることは出来ませんので多くの場合は熱帯魚店に引き取って貰うことになると思います。自分で殖やした幼魚は一段と可愛く、少しでも長く手元に置きたいものですが、店の方にも売りやすいサイズと言うものがありますので、予め持ち込むサイズを相談しておいた方が良いでしょう。
トラブル
フロントーサは、タンガニイカ・シクリッドとしてはかなり強健な魚種だと思いますが、それでも様々なトラブルで短命に終わることがあるようです。
拒食
最も多いトラブルは原因不明の拒食ではないでしょうか。特に幼魚期は神経質で、水道水の水質の季節・天候による変動や、明るすぎる環境、振動や騒音、同居魚との力関係、単独飼育の孤独感(?)などが拒食の原因になるようです。拒食状態にあっても、エサの種類を変えると食べる場合があります。配合飼料では、シクリッド用よりも沈下型の肉食魚用の方が良く食べるように思います。また、配合飼料は食べない場合でも、冷凍赤虫、冷凍または生きた小エビ、生きたメダカ、なまシラス、幼魚ならブラインシュリンプやミジンコなどの天然エサなら食べる場合もあります。
浮き上がる病気
病名は判りませんが、熱帯魚店などで長期ストックされている大型固体などによく見られる症状です。背びれが水面上に出てしまう程に浮き上がり、水面でボーっとして元気なく漂ってエサも殆ど食べない状態になります。多くの場合、腹部が大きく凹んでいますが、これは恐らく拒食で痩せているのであり、浮き上がるのは腹部にガスが溜まっているためです。この原因は私には判りません。他種の腹水病と同様の感染症とも考えられますが、その結果ガスが溜まるのは水槽飼育に問題があるのかも知れません。フロントーサは本来、深くて水圧の高い場所に生息しています。これを低圧下で飼育することと関係があるようにも思いますがどうでしょうか。
喧嘩とヒレの破れ
フロントーサを複数で飼育するとオス・メスを問わず必ず喧嘩します。4−5cmの幼魚はそれ程でもありませんが、10cmに近づく頃から激しくなります。若魚期から繁殖が始まる頃までは特に酷く、口と口を突き合わせて噛み合ったり、ねじ伏せ合ったりするようです。老成とともに正面切っての喧嘩は減り、後ろからヒレに噛み付くような攻撃が多くなってきます。こうなると尾ビレや、背ビレと尻ビレの先のフィラメントがバラバラに裂け、繰り返し噛まれるためなかなか完治しなくなります。
ヒレの膜の部分が裂けた場合には、新たに攻撃されることがなければ完治します。しかし、条が切断された場合には、回復はしますが元通りにはならず、痕が残ることが多いようです。
腹ビレの先のフィラメントの伸長は重要なポイントですが、販売されている幼魚の段階で喧嘩により既に先端が噛み切られていることがありますので注意が必要です。もちろん再生しますが、時間がかかるようです。将来的にフィラメントの伸びる固体は幼魚期からその兆候があるようです。オスの方が長くなります。
青くならない
地域変異により青くなり易いものと難しいものがあります。また、ブリードよりもワイルド、メスよりもオスが青くなるようです。「Appendix, Tanganjika Cichliden周辺知識 1. 魚の種類と学名」を参照して下さい。熱帯魚一般に水質調整が美しい発色の条件とされますが、フロントーサの場合も水質、特にpHを高めに設定した方が青くなるように思います。魚の体色は様々なホルモンによって調節されています。体色に影響するホルモンの一つに甲状腺ホルモンがあります。このホルモンは特殊な分子構造をしておりヨウ素(ヨード)原子を含んでいます。ヨウ素を含んだ水質調整剤や海藻粉末を含んだエサを使用して、不足しないようにする必要がありますが、これのみで青く発色するものではありません。また、大量に与えても意味はないと思います。
寿命
2019年現在の英語版ウィキペディアには、C.フロントーサは25年以上生きると記載されています。私の飼育では、最長で15年でした。