配合飼料
(このページは2006年から書き始め、随時加筆しています。下に紹介したエサのなかには、2024年現在、すでに販売が終了されているものも相当数あります。)
エサの影響
上の画像はCyathopharynx foae “Moliro”の自家繁殖個体です。若魚ですが、黄色みが強く腹ビレの先だけでなく背ビレ、尻ビレのふちが黄色く染まっています。この魚の親魚や一般にC. foae “Moliro”として紹介されている魚に背ビレや尻ビレが黄色いものはないと思います。20数匹の幼魚の成長期にマリーゴールド(花壇によく咲いているあの花)が配合されているアユの養魚用のエサをほぼ一日おきに与えました。この花の黄色い色素はルテインというカロテノイドだそうです。他ページで紹介している同腹の個体達も黄色味が強くなってはいますが、この個体だけが飛び抜けています。エサの影響には個体差が大きいと推察されます。
さて、下に紹介する水産飼料の本などを見ると、不適当なエサの悪い影響についても、例えば特定の栄養素が不足した場合には病気や奇形の発生「率」が上がるとされています。つまり影響を受け易い個体と受け難い個体がいて、多少の栄養不足では正常なものと異常なもの(と中間的なもの)に分かれるということです。(もちろん群れで飼育する場合、エサを多く摂れる個体と摂れない個体の差が大きいとは思います。)水産学の実験では通常、同じ親から同時に生まれた魚を実験材料とするようですので、遺伝的に近い個体間でも何らかの理由で大きい差が出るようです。
上の画像の魚はその後、別のエサに変えると2-3ヶ月で普通の体色に戻りました。また、成長期を過ぎた老成魚にアユ用のエサを与えてもこれほどの「色揚げ」効果はありませんでした。やはり成長期はエサの影響が出やすいのでしょうか。また、一度黄色くなった個体も5歳20cmほどに老成すると同じエサを与え続けても背ビレの黄色は消えてしまい、やはり魚齡の影響は大きいと思います。C. foaeには”イエローチン”と呼ばれる下顎が黄色くなるタイプがいますが、私が飼育した“Moliro”では下顎に色が出る個体は見られませんでした。エサの影響は個体差があるとは言え、その範囲が遺伝的に決まっているようです。
配合飼料
魚粉、小麦粉、ビタミンなどの原料を練り合わせてフレーク状や粒状に成型し、乾燥させたものを熱帯魚関係の言葉で「人工エサ」「人工飼料」と呼ぶことがありますが、ここでは水産業界でよく使うらしい言葉で「配合飼料」と呼ぶことにします。魚のエサには、生きエサ、生(なま)エサ、冷凍エサ、フリーズドライのエサ、人の食品の流用、自家栽培した藻類などいろいろあります。自分で方法を研究しながら生きエサを採集したり、自家培養したり、あるいはハンバーグのようなエサを自家調製するのは楽しく、魚のためにも良いことでありますが、そのようなエサの調達を長年続けられる人は少ないと思います。やはり便利さの点で配合飼料が必要になると思います。魚種によっては無理かも知れませんが、市販の配合飼料のみで成長、発色、繁殖、長期飼育ができれば、飼育は非常に楽になります。様々な使用目的で創られた商品がありますので、「どれが一番良い?」ではなく特徴を理解して使うのが良いと思います。
魚をどう育てるかには色々な考え方がありますが、多くの人は、病気、奇形、異常な成長不良を起こさないことや、長生きさせることを望んでいると思います。しかし、大きさ、体色、体型、成長の速さ、繁殖させるか否かなどは飼育者により、また、魚種により考え方の分かれるところでしょう。
ディスカス、グッピー、らんちゅう、一部の古代魚などには、大きく育った個体が好まれる傾向があると思いますが、その他の魚種では別の価値観で育てている人が多いと思います。生息地での魚の調査、採集などを行っている人が本やWEBサイトに書いているサイズが野生個体の成魚の標準的なサイズだと思いますが、水槽内の中型シクリッドではその1.5倍くらいに育っているのを見かけることがあります。(交雑が原因と思われる場合もありますが。)また、大型種は水槽内では天然下ほど大きくならないとも言われます。意見は分かれますが、いわゆる大型魚の盆栽飼育というのもあるようです。
体色についても、生息地での水中写真に見られる発色を理想とする人もいれば、それを超えた発色を望む人もいます。水槽内で野生個体と同程度まで発色させることが難しい一方で、エサの選択により、特に赤や黄は、野生個体には見られない発色をさせることも可能です。冒頭の画像はその一例ですが、マラウィ湖産のシクリッドでも飼育下では頭の天辺や背ビレのふちなどに野生個体にはないと思われる発色を見ることがあります。
体型についても同様で、野生個体の体型を理想とする考え方がある一方、コブのある魚はよりコブを大きくして迫力を出す、ヒレの長い魚はより長くして優雅にする、また、水槽で横から見る都合上、体高がある方が見栄えがするという考え方もあるでしょう。(同じ人でも魚種によって考え方が違うことも多いと思います。)体型で難しいのは、顎、口、顔の辺りが水槽内では小降りで丸い感じになってしまい、野生個体のようなメリハリのある厳つい形にならないという問題です。これは顎の発達に必要な運動が少ないためだと言われます。エサの捕り方、砂との接触などで顎を使わせるように工夫するしかないのですが、具体的にどうすれば良いのかは難しいです。もう一つは、頭の後ろが盛り上がってしまう問題です。食用の鮮魚では、美味しい魚の選び方として、頭の後ろが盛り上がった魚を選ぶと良いと言われますが、観賞魚としてはどうでしょうか。成長期を過ぎた個体への高栄養のエサの与えすぎが原因であることが多いと思います。
繁殖については、配合飼料のみで何の問題もない魚種も多くありますが、配合飼料のみで飼育するよりも天然のエサを併用した方が良い結果が得られると思います。Tanganjika Cichliden本編で紹介しているCyphotilapiaは、配合飼料のみで飼育している時期にも産卵していましたが、生のサクラエビを与えると産卵の頻度が格段に上がりました。当時住んでいた地方では、春と秋には生のサクラエビとシラス(イワシの稚魚)がスーパーで安く販売されていました。魚の年齢上で活力があった時期には、サクラエビを与え始めると1日おきに与えて10日目くらいにはほぼ確実に産卵していました。(もちろん産卵と産卵の間は1−2ヶ月開きます。)配合飼料には少ない成分が生のエサにはあるようです。私個人の仮説としては、食品成分の分析値を見ると、イクラ、タラコ、カズノコなどの魚の卵はコレステロールを多量に含んでいるため、魚の卵が出来上がるためには大量のコレステロールが必要なのではないでしょうか。一方、エビもかなり高いコレステロールを含んでいます。特にサクラエビは高コレステロールで、オキアミ(クリル)などよりも高い値です。これが産卵に関係あるのではないでしょうか。魚のエサの原料で高コレステロールのものは全卵(鶏卵)とイカ(イカミール)ですが、これらを大量に含むエサに産卵促進の効果があるか否か、興味がもたれます。(追記:その後、メダカブームの最中に発売されたメダカの繁殖促進効果があるエサには、コレステロールの高い原料が使われているように思います。)一般にエサは卵の質、つまり孵化率とか産まれた仔魚の健康にも、また産卵数にも影響があると言われます。(産卵数は親魚のサイズにも影響されます。)産卵数が少ないと言われるマウスブルーダーでも一般家庭で飼育するには仔魚数が多すぎて困ることが多々ありますので、良質の卵を少数(10個以下)産んでくれると助かるのですが、難しいものです。また、天然のエサを始めて与えたときの魚の反応を見ると、天然エサには魚の野生の本能を呼び覚ます効果もあるように思えます。ところで、生のエビの場合、海産のエビと淡水産のエビを比べて、海産のエビの体内の塩分が問題になるほど高いとは私は思いません。むしろ海水性の病原体のある割合は淡水では増殖しないという点で海産のエビの方が良いと思います。また、淡水産エビの方が栄養分的に淡水魚に向くと言うのも具体的な根拠に欠けると思います。エサの甲殻類の殻のキチン質の多くは腸内細菌によって消化されるそうです。
ウナギの養殖では、天然下なら成長に数年を要するサイズまで1年で育ててしまうそうです。観賞魚の場合でも、幼魚は色が悪く見てもつまらないから速く成長させたいと考える人が多いのか、市販のエサでは成長の速さを謳うものが多いようです。私は幼魚の群れが好きなのと、水槽のやりくりの問題で、他に問題が起こらない範囲でゆっくり成長してくれた方が有り難いと思うことが多いのですが。成長速度は成長後の魚の性質に影響するようです。あくまでも風説のレベルでの話ですが、ある魚種では速く成長させた魚は最終的なサイズも大きいが短命に終わりやすい、河川産ドワーフシクリッドやポリプテルスでは速く大きく育てた個体は発色に鮮やかさが掛けコントラストのはっきりしない模様になりやすい、などと聞いたことがあります。
私の今の考え方としては、1)稚魚・幼魚期は成長不良や奇形の発生を防ぐため栄養豊富でバランス良く、2)繁殖を促進するエサがある筈、3)幼魚以外、水槽内飼育では栄養価が高いエサが良いとは限らない、単にエサの量を減らすのではなく栄養バランスで成長や体型をコントロール出来ないか、4)病気を防ぐエサがあるなら欲しい、などです。このページの初稿は2006年(改良メダカブームのかなり前)のもので、その後更新を繰り返していますが、20024年現在では、繁殖を促進するエサはメダカ用として多く販売されています。また、感染症の防止や寄生虫の駆除に有効なエサも出ています。
以上は私個人の考えです。下の参考文献に基づくものではありません。
参考文献
私自身、魚類の栄養学について知識がある訳ではありません。観賞魚用のエサについては、メーカー各社が出しているパンフレットのようなもの以外に詳しい本が見当たりませんでした。各メーカー、勝手なことを言いたい放題になっていないでしょうか。科学的な実験データを伴う資料として、水産学の本を参考にさせて頂きました。水産に関する専門書ばかりシリーズで百数十冊も刊行している出版社があります。さすがは水産国ニッポンです。紹介する4冊はどれも専門書ですので、生物化学などの多少の知識がある方以外は中身を確かめてから購入されることをお薦めします。(どれも章毎に異なる多数の著者による本ですが編者のみ紹介します。)
(1)
水産学シリーズ54 日本水産学会監修
養魚飼料−基礎と応用 米靖雄編
易
恒星社厚生閣 1985年 150ページ
昭和60年初版発行の本ですが、私が平成17年に入手したのは平成9年の第3刷です。スタンダードとして長く読まれているのでしょうか。当然ながら食用に養殖される魚種を対象としていますが、この当時、ティラピア(Tilapia zilliiとT. nilotica)の養殖の研究が盛んだったのでしょうか、ティラピアに関するデータも紹介されていますので、これがシクリッド用には参考になるかも知れません。蛋白質とアミノ酸、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルといった各栄養素の必要性や効果的な養魚のために考慮すべき点、飼料のエネルギー価の考え方、仔魚用飼料の特性、仔魚の消化吸収機構、微粒子飼料、海水魚用、淡水魚用、親魚用の各実用飼料の組成と効果など水産学の成果が分かります。
(2)
水産学シリーズ101 日本水産学会監修
魚介類の摂エサ刺激物質 原田勝彦編
恒星社厚生閣 1994年 127 ページ
栄養面で優れたエサでも魚が食べてくれなければ意味がありません。観賞魚でも配合飼料を食べてくれない個体や魚種がよくいます。魚が食べる、食べないの反応はエサの生きた動きによる場合と臭いや味による場合があると思います。臭いや味は水に溶けて漂ったりエサの表面に付着したりしている物質が魚の臭覚器、味覚器を刺激することで魚に感じ取られます。水産学では臭いや味は、例えば肉の臭いやエビの味といったエサの材料のレベルではなく、アラニン、イノシン-5’-一リン酸のような化学物質のレベルで研究されているようです。魚類の臭覚器、味覚器についての研究成果、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸関連化合物、脂質、糖質などの摂餌刺激、実際の飼料への応用などが紹介されています。水産目的の本ですので魚類以外に貝類や節足動物についてのデータも多く紹介されています。
(3)
水産学シリーズ137 日本水産学会監修
養殖魚の健全性に及ぼす微量栄養素 中川平介・佐藤稔編
恒星社厚生閣 2003年 131ページ
市販の観賞魚用の配合飼料には一般にビタミンやミネラルが添加されています。それ以外にも特別な微量添加成分についてそのメリットが宣伝されていることがよくあります。これら微量成分の魚の健康状態への影響に関する研究成果が分かる本です。15種類のビタミン、14種類のミネラル、脂質(脂質には実に多くの種類があり、単にエネルギー源になるのみではなく様々な生理活性を担う微量栄養素として働くものがあります)、カロテノイド(ビタミンA群やキサンチンなど)、ペプチド・アミノ酸、植物抽出成分、藻類(クロレラ、スピルリナ、海藻粉末)の効果などが紹介されています。またこれらの効果がどのように調べられているのかも分かります。
(4)
改訂 魚類の栄養と飼料 渡邊武編
恒星社厚生閣 2009年 416ページ
2009年出版のとても良い本です。実利的な知見の紹介のみでなく、実験方法やデータ、その解釈も詳解されている点で研究指向が強く難しい専門書ではあります。各種栄養素成分についての正確で詳しく分かり易い説明はとても有り難いです。稚魚や親魚など養殖魚の繁殖に関連した栄養についての章もあります。最長の第10章では、飼料に使われる様々な原料の特性や飼料の製造方法の解説があり、とても役に立ちます。
これらを参考にさせて頂きながら、市販の配合飼料について考えてみたいと思います。食品の成分は「食品成分データベース」というサイトで、ミネラル、ビタミン、脂肪酸の各種類ごとの含量を調べることができます。人間用ですので、例えば魚などは、通常人間が食べる部分の分析値です。魚の飼料の原料になるのは別の部分である場合がありますので注意が必要です。オキアミ、小麦胚芽などは分析値がありますが、アカムシ、ミジンコなどは載っていません。
市販の配合飼料
結論から言いますと、大手メーカーのエサには観賞魚用であっても水産学の研究成果が十分に取り入れられており、素人が少し本を読んだ程度では文句の付け様がない程良く出来ているということです。エサの評価といっても個人の趣味のレベルでは客観的な実験に基づくことは現実的には不可能ですから、魚が食べるものでありながら飼い主がどう感じるかということになってしまいますが、自分がよく使うものの感想を書いてみます。消費者の(勝手な)意見みたいなものでしょうか。科学的事実、宣伝、風説、自説などによる情報の信頼性のレベルの違いが区別出来るように注意して書いたつもりですが、至らぬ部分は御容赦願います。
原料の表示順は、観賞魚用配合飼料でも人間の食品の場合と同様、多い順になっているものと考えています。
このページは2006年から随時書き足していますが、年月の経過とともに入手可能なエサ、多用するエサが変わっています。使用量も増えコストも気にしています。2024年現在、体調5−6cm以上のシクリッドに主に使用しているのは、タナゴ用、アユ用、各種金魚用です。熱帯魚用、シクリッド用は、ほぼ使用していません。また、付録で紹介している主にコイ科の小型魚には、メダカ用、水産稚魚用を与えています。
市販飼料 その1
このメーカー、製品のレベルは高いと思います。嘗ては国内大手メーカーが販売していたと記憶していますが、日本法人ができてからは扱っている小売店が少ないようです。店頭の販売スペースの取り合いは熾烈なのでしょうか。それと、ドイツでの広告をそのまま日本語にしただけのような宣伝も、私は好きですが、一般にはどうでしょうか。
藻類食性シクリッド用のエサは「岩に生えている藻類とそれに付着する小動物をエサ」とする魚のために主原料をスピルリナとブラインシュリンプにするという素晴らしいコンセプトで作られています。販売時期によりパッケージの表示内容が違うとは思いますが、手元にあるものは残念ながらそれ以外の原材料の表示はありません。全体に薄味ですがスピルリナの味は確かにします。成分(粗蛋白質、粗脂肪等)と添加ビタミンの表示はあります。粗蛋白質が35%と他の熱帯魚用のエサに比べて少ない点も特徴だと思います。水産養魚用のエサの場合には低蛋白質の場合、熱量(カロリー)を補うために油を添加して脂肪分を補うことがあるようですが、このエサでは粗脂肪もそれほど多くはありません。繊維質は多めでしょうか。観賞魚用のエサには高蛋白質のものが多いようですが、Dr. Ad Konings編のEnjoying Cichlidsでは低蛋白質のエサが推奨されています。魚種や飼育目的、成長段階にもよりますが、水産養殖と違い、狭い水槽で鑑賞目的の魚を飼う場合、必ずしも高栄養が良くはないと想像がつきます。(2006.11)
熱帯魚一般用のクランブル状のエサは、形状の点と色の点(赤のみ強調しない)で使いやすいエサだと思います。この製品の手元にあるパケージには原料も表示されています。鱈の肝油、ひまわり油などは必須脂肪酸のバランスを考えての添加なのでしょうか。(2006.11)
赤系ディスカス用のエサは、赤の色揚げ効果を期待してTropheus moorii “Redrainbow”に与えてみましたが、食べる個体と食べない個体がいるようです。このエサは、ふりかけに入っている削り鰹のような味ですので、藻類食の魚に好まれなくても致し方ないでしょう。エサなんてどれも大差ないとも言えますが、少なくとも味は大分違います。ディスカス用のエサは流石に高蛋白質です。カルシウム、リンの含量が表示されています。(2006.11)
スピルリナの含量が多いタブレットは、水槽の内壁面に貼付けるとTropheus mooriiが齧り取るように食べて面白いです。食性にはかなり合っていると思います。他メーカーも含めスピルリナ含量が明記されているエサはほとんどありませんが、「20%」を宣伝するということは、他はもっと少ないということでしょうか。鮮やかな緑色は必ずしもスピルリナの色ではありません。静水中に放置すると、びっくりするほど多量の青色の色素が溶け出して来ます。小型水槽では水が青くなります。繊維質が多いようです。カルシウム、リンの含量が表示されています。(2020.5)
タブレット以外の容器はどれも蓋を回転させると小さい口が開いて、そこからエサを振り出す形式になっています。蓋全体を開けることが出来ない(もちろん力ずくなら開きますが、基本的に開けない構造)のですが、私は一回の使用当たり茶さじで5杯、6杯と測ります。ヘービーユーザーのことも考えて蓋が外れるようにして欲しいものです。
上の画像の製品には6種類のビタミンの添加量が明示されています。これらは上の参考文献などを見ても魚種によらず十分な量だと思われます。メーカーによってはビタミンの種類は記載されていても量は書かれていないことがあります。
ビタミン
ビタミンには15種類あります。ヒトの健康に対する各ビタミンの作用は一般によく知られていますが、魚に対してはどうでしょうか。文献(3)には、各ビタミンの欠乏症状の表が載っています。ヒトの場合と比べると、当たらずも遠からずといった感じでしょうか。魚種による違いもあるようです。(残念ながらシクリッドのデータはあまりないようです。)ヒトも魚も分子レベルでのビタミンの作用は同じようなものだと思いますが、体制の違いでやや違う症状が表れるのでしょうか。
大型魚の飼育などで、金魚はビタミンB1(thiamine、チアミン、サイアミン)を分解する酵素、チアミナーゼ(thiaminase、サイアミネース)を多く含むため生きエサとして金魚だけを与え続けてはいけないと言われます。ではビタミンB1が欠乏すると魚はどうなるのでしょうか。ヒトではビタミンB1欠乏症として脚気が有名ですが他にも神経系の症状や浮腫などがあるようです。さすがに魚で脚気という病気はないようですが、神経系の異常や鰭うっ血、皮下出血などの症状が出るようです。他のビタミンでも欠乏により複数の症状が見られ、症状の重複や魚種による差もあるようです。水産学の実験では特定ビタミンを除外した飼料で飼育した魚を観察して欠乏症状を調べる訳ですが、逆に趣味レベルで飼育している魚に何らかの症状があっても、特定のビタミン欠乏症であるのかどうかの断定は現実的にはできないのではないでしょうか。
エサの広告ではよくビタミンCやEが魚のストレス耐性を高めると謳われています。ヒトではこれらのビタミンの作用について、このような表現はあまりされていないと思います。魚のストレス耐性の実験では、高密度飼育、温度の高低、塩濃度の高低、酸素欠乏、空気中への露出、細菌やウイルスなどの病原体の感染といった物理的なストレスが負荷されるようです。で、そのときの魚の生死や病気症状の発生など、解剖も含め魚の各個体を目で見るレベルで観察してストレスへの抵抗性を観察する以外に、血糖値やストレス応答時に分泌されるホルモンであるコルチゾールの血中値などヒトの健康診断の項目にあるような血液の解析や、血清リゾチーム(細菌の細胞壁を分解する酵素)活性、抗体産生能、補体(抗体が細菌などを認識した後、細菌の細胞膜を破壊する蛋白質)活性、貪食活性(マクロファージという白血球の一種が細菌などを取り込んで消化する活性)など血液中の免疫機能の解析を行うようです。尚、ビタミンCの作用として通常第一に挙げられるのはコラーゲンの合成への関与だと思います。コラーゲンはいわゆる結合組織を構成する蛋白質で、骨、軟骨、皮膚のみならず、臓器などあらゆる組織で構造を作るのに必要ですので、これが不足すると奇形が発生すると言われます。
その他、気になったのは、いくつかのビタミンの欠乏で眼球突出の症状が報告されている[文献(3)]こと、また、親魚の生殖腺の成熟、産卵の過程ではビタミンEが重要な機能を果たしている[文献(1)]ことです。
市販飼料 その2
このメーカーのエサはアラスカ製と表示があり、特徴的な原料が使われています。
この植物食性の魚用のフレークには、スピルリナとケルプが配合されています。ケルプとはコンブやワカメのような海藻の一種ですが、海藻とは水草とは全く別の生き物です。ケルプは多くのヨウ素を含んでいて(人間用の)健康食品に加工されたりもしているようです。このメーカーのエサは魚粉(フィッシュミール)を使用せず、北海産の数種類の魚を使用しており、魚種名が明記されています。ロットにもよると思いますが、フレーク現物をよく見ると、確かに魚粉ではない「魚」を原料にしていると思われる部分があります。筆頭原料はサケになっていますが、確かにサケの味がします。配合飼料の中ではかなり美味しい方だと思います。(魚粉は使用されていませんが、魚粉と言っても水産用には近海魚粉と北海魚粉が区別されており、栄養面で異なるとされているようです。)このメーカーのエサも素晴らしいコンセプトで作られていると思います。平均的な観賞魚用のエサと比べると、どちらも脂質が多い方だと思いますが、このブランドはω3、ω6脂肪酸(ω:オメガ、ギリシア文字Ωの小文字は画面にちゃんと表示出来ているでしょうか)の含量が多いことを強調しています。動物にとってある程度の脂質は必要です。脂質には様々な生理機能があり、特に必須脂肪酸と言われるものは摂取しないと生きていけません。(2006.11)
ペレットの方は原料として生ケルプが筆頭に記載されていて、確かに海藻の臭いがします。味はどちらかと言うと藻類(スピルリナ)的な味の方が強く感じられますが、そもそもケルプには薄い味しかないのでしょう。ペレットの方は蛋白質控えめです。上の方にも書きましたが、アフリカン・シクリッドにはこの方が良いとする説があります。(2006.11)
海藻
ケルプ、あるいは別の海藻だと思いますが「海藻粉末」というものを含んだエサが多数市販されています。水産学では大型藻類(ケルプ、コンブ、ワカメなどが大型藻類、スピルリナ、クロレラなどは微細藻類)の飼料への添加の効果も研究されています[文献(3)]。ビタミン、ミネラルの他にも多くの有効成分を含んでおり、成長の促進の他、上記ビタミンのところで説明したようなストレス耐性や、抗病性への効果もあるようです。
ω3脂肪酸、ω6脂肪酸
脂質と言われる物質は、グリセリド、リン脂質、脂肪酸、ステロイドなどのいくつかのグループに分けることが出来ます。このうち脂肪酸とは油でありカルボン酸でもある分子の総称(もちろん生体内にあり得る範囲の物質かそれに近い構造の分子に限ることが多いと思います。)とされます。化学には構造式というものがあります。C、O、Hなどの元素記号がーで結ばれた式というよりは図に近いアレのことです。これが分かると話は簡単なのですが、ω3、ω6脂肪酸を言葉で説明するとややこしくなります。カルボン酸というものですが、身近なものでは酢に含まれる酢酸があります。示性式ではCH3COOHとなり、カルボキシル基と呼ばれるCOOHのところが、COO-とH+に電離して酸としての性質を示します。脂肪酸もこのカルボキシル基をもっていますが、酢酸のCH3の部分が脂肪酸では「炭素鎖」になっています。炭素鎖とは炭素原子Cが何個も繋がったものですが、炭素原子は通常周りに4つの原子と結合しますので、炭素原子が直線状(実際には炭素原子ごとにジグザグに曲がっています)に繋がると、一つの炭素原子を見たときには、前後の炭素原子との結合以外に2つの原子と(末端の炭素原子は3つの原子と)結合する余裕が残ります。脂肪酸の炭素鎖ではここには水素原子Hが結合しています。水素原子の方は一つの原子としか結合出来ません。連続する2つの炭素原子が水素と結合しないで、炭素原子同士、二重(水素原子との結合は1個ずつ)、または、三重(水素原子との結合は無し)に結合している場合もあります。カルボキシル基にこの炭素鎖の片方の末端が結合したものが脂肪酸です。炭素鎖の長さは炭素原子30個位までです。(直線状につながったもの以外に枝分かれしたものや、環状になったものも天然に存在するようですが、魚のエサの話にはまず関係ありません。)炭素鎖部分の炭素原子間の二重、三重結合の話に戻りますが、炭素鎖に二重、三重結合を一つでも含む脂肪酸を不飽和脂肪酸、全く含まない脂肪酸を飽和脂肪酸と言います。さて、ここでやっとω3、ω6脂肪酸とは何かの説明が出来る訳ですが、脂肪酸のカルボキシル基とは逆の末端をω末端と言い、ω末端の炭素(1番目)から3番目の炭素までの2つの炭素間結合は普通の単(一重)結合で3番目の炭素と4番目の炭素の間(炭素間結合としては端から3つ目)に二重結合があるのがω3脂肪酸、炭素間結合として5つ目までは単結合で6つ目の炭素間結合(6番目の炭素原子と7番目の炭素原子の間)に二重結合があるのがω6脂肪酸です。したがって、他の部分の構造の違いでω3、ω6脂肪酸ともいくつかの種類があります。
魚の体内には多種類の脂肪酸がありますが、体内で合成できるものと合成できずにエサから摂取する必要があるものに分かれます。後者を必須脂肪酸といいます。どの脂肪酸が必須脂肪酸であるかは、動物の種類による違いがあるかも知れず、また、未だはっきりしない部分もあるようです。しかし、かなり確かなものとして通常よく取り上げられているのは、ω3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)、イコサペンタエン酸(エイコサペンタエン酸、EPA)、αリノレン酸、ω6脂肪酸であるアラキドン酸、リノール酸です。ヒトの健康食品関係の話題で聞いたことがある物質名だと思います。これらの必須脂肪酸の栄養としての効果は魚種によって差があるようです。海水魚ではω3脂肪酸の要求性が高いようですが、シクリッドであるティラピアではω6脂肪酸であるリノール酸も有効に利用されるそうです[文献(1)]。必須脂肪酸はエネルギー源として使われる他、細胞膜などの膜の成分にもなっているようです。(膜の主な成分は脂肪酸ではなくリン脂質ですが。)これらの必須脂肪酸は魚の卵にも多く含まれており、親魚の飼料中の必須脂肪酸成分が産まれた卵の孵化率などの卵質に大きく影響することが知られています[文献(1)]。ω3脂肪酸は魚油に、ω6脂肪酸は植物油に多く含まれるようです。エサの原料にトウモロコシや大豆が使用されていることがあるのはその辺りも考慮してのことでしょうか。(トウモロコシ、大豆はレシチンも含みます。後述)(2006.11)
市販飼料 その3
これは植物食の海水魚用のエサです。原料として筆頭にスピルリナが記載されています。濃いスピルリナの味がします。その他の原料や添加ビタミン、ミネラルの種類も表示されています。蛋白質、脂質の含量は標準的ではないでしょうか。S粒、M粒の2サイズがあるのも助かり、非常に良いと思われるエサですが、価格が少し高く、多個体を飼育している魚には多用しませんでした。(2006.11)
スピルリナ
藍藻の一種であるスピルリナ、緑藻の一種であるクロレラなどの微細藻類(ワカメ、コンブ、ケルプは大型藻類)の効果も水産学で研究されており、成長やストレス耐性、抗病性への効果が確かめられているようです。大型・微細藻類は、魚種によるとは思いますが、脂質代謝の改善、つまりエネルギー源として蛋白質よりも脂質を優先して使用し、脂肪の蓄積を防ぐ作用も報告されているようです[文献(3)]。また、微細藻類に含まれるゼアキサンチンが植物食の魚の赤い発色を促す色揚げに有効であると言われます。(肉食魚は甲殻類に含まれるアスタキサンチンが有効らしい。)
市販飼料 その4
らんちゅう用のエサをシクリッドに与えている人は多いと思います。以前はプラスチックの容器に入った高級感のあるものでしたが、パッケージが変わった時、少し値下げされたと思います。添加されているビタミン、ミネラルの種類の表示があります。スピルリナも配合。牛胆汁末というものが配合されています。胆汁は肝臓で作られ消化管中に分泌されて脂質の消化吸収を促します。ビタミンのうち脂溶性の(水ではなく油に溶け易い)種類の吸収も助けるとされます。このメーカー、熱帯魚用にも魚種別のエサがあり、どれも真面目に作られている感じがするのですが、最近は新製品の発売が少ないのが気になります。(2006.11)
ミネラル
14種類のミネラル(微量元素、トレースエレメント)が必要とされますが、エサからの吸収、飼育水からの吸収の両方が可能なものが多いようです。亜鉛の欠乏症で白内障の報告がある[文献(3)]のが気になります。上のエサには亜鉛も添加されています。
市販飼料 その5
このメーカーは企業の特性にあった独創的なエサを販売していると思います。人の食品では常識ですが、このメーカーのエサは(全部かどうか確認していませんが)容器に乾燥剤(シリカゲル)が入っています。私は、焼き海苔などに入っている乾燥剤をラップで密閉して取っておいて(新品でないのであまり効果はないかも知れませんが)、他メーカーのエサを開封したときに容器に入れていますので、はじめから入っているととても助かります。
このエサはグッピー用ですが、私はグッピーを飼育したことがなく、これを水草水槽の小型魚や、日本メダカに与えました。このエサの原料はとても面白いと思います。まず、魚粉は使わず、主な蛋白源として、乾燥全卵、脱脂粉乳が配合されています。観賞魚のエサでは珍しいことですが、水産や畜産の実験に使用する飼料では、標準的なアミノ酸バランスの蛋白質として、鶏卵から分離した蛋白質や牛乳中に多く含まれるカゼインが使われることが多いようです。したがって、それらの蛋白質を含む乾燥全卵や脱脂粉乳を配合するのは、ある意味自然ではないでしょうか。脱殻アルテミア(殻を除いたブラインシュリンプの卵)は、コストが掛かっていると思いますが、色揚げや摂餌誘因に効果があるそうです。(水産でも稚魚用飼料としてブラインシュリンプを使用するようですが、その栄養価は何故か低く評価されているようです[文献(1)])。トルラ酵母も他では見ない原料だと思います。(2006.11)
改良メダカブームのなか発売された高蛋白質、高脂質のメダカ用のエサです。免疫力増強、健康維持などを目的として実に多種類の原料が使われています。微生物だけでも、乳酸菌、酪酸菌、ビール酵母、トヨセリン(バチルス菌の一種)、ビフィズス菌が表示されていますが、プロバイオティクス目的で生きたまま配合されているものと栄養や微量有効成分の補充を目的としたのものがあるようです。生きた細菌にも魚の消化菅内での機能を期待したものと、排泄後の水槽内での機能を期待したものがあるようです。その他の微量成分としても、マンノース、β-グルカン、パパイア抽出物、甘草抽出物、サナギ抽出物、特殊卵黄粉末と他にはないものが多種類配合されています。しかし、それぞれの配合の意図の説明がパッケージ、WEBサイトとも不十分でよく分からないのが残念です。カルシウム、リンの含量が表示されています。(2024.10)
金魚用のエサ。筆頭原料は小麦粉で蛋白質、脂質も少なめです。普通に金魚を飼うためのエサだと思いますが、熱帯魚でもそれに近い魚種と飼い方ならこれで良いと思います。ただし、粒は金魚や鯉のエサには以前から多いタイプの性状ですので、硬さには注意が必要です。色揚げ成分として、アスタキサンチンを多く含むヘマトコッカスと言う微細藻類を配合していますが、さらにアスタキサンチンも添加されています。健康促進を意図して、トルラ酵母、ラクトフェリンが配合されています。(2024.11)
稚魚用の高蛋白質、高脂肪のエサ。粒は小さいのですが、小型魚の生まれたばかりの稚魚には、すり潰して与える必要があるかも知れません。これも数種類の微生物原料が含まれています。甘草は生薬として使用されることが多く、甘みのあるグリチルリチン酸を含み、それには抗炎症作用などがあると言われますが、このエサへの配合の意図は何なのでしょうか。カルシウム、リンの含量が表示されています。(2024.11)
トルラ酵母
ビール酵母、パン酵母(どちらもSaccharomyces cerevisiae)などの酵母はいろいろな栄養物質を含み人間の健康食品や家畜のエサの栄養補助として利用されています。このエサにはトルラ酵母(Candida utilis)という酵母が配合されています。これも国内外で同様に利用され、実際に有効であるという研究データがあるようです。ちなみに酵母とは単細胞の菌類の総称で、もの凄く多くの種があります。多細胞の菌類はカビやキノコで、菌類は細菌(バクテリア)とは全く別の生物です。
ラクトフェリン
ラクトフェリンは哺乳類の母乳に含まれる蛋白質で、鉄イオンと強く結合する性質をもち、細菌の増殖に必要な鉄イオンを奪ってしまうことで細菌の増殖を抑制し、また、結合した鉄イオンが子供の消化器から効率よく吸収されるようにする機能があると言われます。同時にラクトフェリンを経口摂取すると免疫系が刺激され活性化されることが知られています。これが果たして魚に効くのかという疑問がありますが、実際に実験例があり、免疫機能の活性化、ストレス耐性の増加(血中コルチゾール値の低下)などの効果が確認されているようです。
マンノース
マンノースは単糖類の一種で、鎖状にいくつも繋がるとマンナンという多糖類になります。魚の皮膚の粘液の主な成分であるムチンは多糖類と蛋白質が結合した糖蛋白質で、その糖鎖にはマンノースも含まれているようですが、多くは他の糖であり、マンノースが多いわけではないようです。マンノースは、このムチンを分泌する細胞を活性化すると説明されています。
卵黄
卵黄は卵白と比べて脂質やビタミンの含有量が多く、栄養成分に富んだ食品です。エサに配合されている特殊卵黄粉末とはどのようなものなのか分かりませんが、免疫力を高めると説明されています。
市販飼料 その6
使ったことのない人はいないほど市場占有率が高いと思われるメーカーです。ある時期、国際的な製薬会社の一部門になっていたと思いますが、今は観賞魚のエサと器具のメーカーとして独立したようです。企業合併、独立などの度に少しずつ商品イメージが変わっているようにも思います。今は分かりやすくなっていますが、ずっと前には日本人には理解し難いネーミングの商品もありました。「ドロ」ってどういう意味か分かる人はそんなにいないと思います。広告では使用原料の種類が多いことを宣伝しているときがありますが、容器にはそのすべてが表示してある訳ではありません。
「ビッツ」と言われてピンと来る日本人は少ないからかも知れませんが、ディスカス専用として売られているエサは、配合飼料を食べる魚種なら大きさ的に合わない場合以外は殆ど餌づくのではないかと思われるほど、いろいろな魚が食べてくれます。誰もが知っているクランブル状のエサの代表商品だと思います。「バイオアクティブ」という欧米で特許を取得した製法を宣伝していますが、もう少し具体的に技術的なことを説明して欲しいところです。レシチンはリン脂質成分で水産用のエサにも添加する場合があるようです。β-グルカン、ω3脂肪酸、海藻はこのエサにも配合されています。(2006.11)
ディスカス用のエサのあの赤色は何という物質の色なのでしょうか。今は赤の色揚げ用には別の製品がありますので上のはそれ程でもないのかも知れませんが、同じ様な性状のエサであまり赤くないのが欲しい時もあります。他メーカーには該当する製品がありましたが、このメーカーからも小・中型シクリッド用として発売されました。赤い粒も少量混ざっています。今までなかったのが不思議です。β-グルカン、スピルリナも配合されています。(2006.11)
植物食魚用のフレークは、幼魚のエサの一つとして使用していました。国によってはこの手のエサはスピルリナフレークと総称するようですが、スピルリナも配合されています。手元にある容器では原料の表示に穀類、植物性蛋白質、多糖類など曖昧な表現が見られます。「主原料」と表示して最後に「他」が付いています。(2006.11)
2011年に発売されたメダカ用のエサは、「輝き成分」としてグアニンを多く含んでいるそうです。グアニンについては、Appendix:Tanganjika Cichliden 周辺知識、1.魚の名前と種類についての中のメタリック・ブルー?の項目を参照して下さい。グアニンの具体的な含量については表示がありません。メダカ用の細かいフレークですので、シクリッド用としては稚魚のエサ程度にしか使えないでしょう。その他の成分はメダカ用としてバランスが取れているのだと思います。(2012.5)
グアニン
Appendix:Tanganjika Cichliden 周辺知識、1.魚の名前と種類について参照。
β-グルカン
β-グルカンには数種類の免疫細胞を活性化する機能があり、免疫力を増強するとされています。経口投与により免疫細胞を活性化させ、それによる抗腫瘍作用があるとされ、人間の健康食品として利用されています。その他にもいろいろな健康によい機能があるとされているようです。グルカンとは多糖類の一種です。グルコース(ブドウ糖)は単糖類の代表ですが、このグルコースの分子がグリコシド結合という結合で多数繋がったものがグルカンです。グルコースには分子の立体構造の違いによりα(アルファ)グルコースとβ(ベータ)グルコースがありますが、βグルコースが連なったものがβグルカンです。βグルカンもグルコースの繋がり方(直鎖状や枝分かれ)により多くの種類があります。例えば植物の繊維の大半を占めるセルロースもβグルカンの一種ですが、健康食品の説明などを調べてみると、上に書いたような作用があるのはある限られた構造(グルコースの結合の仕方)のβグルカンだけのようです。通常は酵母やキノコの細胞壁から抽出するようです。魚類にも同様の作用があるのかどうか、上に挙げた参考文献には記述が見当たりませんでしたが、ネットで調べてみるとサケの養殖など水産への応用例は確かにあり、養殖魚のストレス耐性を上げる作用についても報告があるらしいです。ちなみにαグルコースが連結した多糖類にはデンプンなどがあります。
レシチン
脂質としてエサに添加されていることのある成分にレシチンというものもあります。脂質にはリン脂質と呼ばれるグループがあることを上に書きましたが、エサに添加される場合のレシチンとはいろいろな種類のリン脂質の混合物を指します。リン脂質は脂肪酸以上に複雑な構造の分子で多くの種類があります。エサ用のレシチンはグリセロリン脂質と呼ばれるグループのリン脂質を多く含むようですが、これはグリセリン、リン酸と各種の脂肪酸、アルコールの分子が結合して出来た分子で、細胞膜、核膜などの細胞の膜構造を作るほか、細胞内の情報伝達に関与する分子もあるそうです。魚種にもよりますが、仔魚の健全な生育に必要なようです[文献(1)(3)]。
市販飼料 その7
一番商品数の多いメーカーです。同じ商品名のエサでも発売時期により内容が更新されていますが、日々研究開発に取り組んでいる成果でしょうか。
「シクリッドには小麦胚芽が最高に良い」として発売されたエサでしたが、使用原料の表示を見ると時期により内容が変わっており、手元にあるうちで新しい方(画像右)では小麦胚芽よりもフィッシュミールの方が前に書いてあります。筆頭主原料のサケシラコミールはDHA(ω3脂肪酸の一種ドコサヘキサエン酸)を多く含むと説明されていますが、同じく新しい方は魚油も添加しています。サケの卵(イクラ)と違って白子(精巣)の方は魚のエサになるほど安価なようです。大豆蛋白質やカロチノイドも初期の製品にはなかった原料です。発売当初のものは斬新すぎてやや不安を感じたユーザーもいたのではないでしょうか。フィッシュミールには小麦胚芽にはない骨の成分や魚の脂分が含まれています。(ただし、骨成分中のカルシウムの大部分はリン酸カルシウムの中でもヒドロキシアパタイト(ハイドロキシアパタイト)と言う難消化性の物質になっていて、胃のない魚(コイ科など)では殆ど吸収できず、胃のある魚(シクリッドなど)でも吸収効率は良くないそうです。カルシウムは水中成分から吸収できるそうです。)高蛋白質のエサですが、これについてはメーカーの考えを聞いてみたいものです。もちろん高い成長率のためには有効だと思います。小麦胚芽はアミノ酸バランスがシクリッドに向いていると宣伝しながらアミノ酸を添加しているのは、アミノ酸バランスを整えるというよりも、摂餌刺激により食いつきを良くするためと思われます。(2006.11-2024.11)(このメーカー、2006年時点でネットで調べると海外ではシクリッド用のエサは数種類販売していました。国内でも発売して欲しいものだと思っていましたが、その後、同じまたは類似のものが発売されました。)
上に書いたエサの一つが国内でも発売されました。「プロバイオティクス」で配合されている生菌剤は枯草菌の一種Bucillus subtilisと英語で記載されています。原料からはサケシラコも小麦胚芽もなくなり、一般的な肉食魚用に近くなっています。甲殻類も使用されていません。粒の形成は錦鯉のエサのような感じです。90年代に発売されたものと比べると、最近のエサはコスト削減の痕が目立つように感じるのは私だけでしょうか。シクリッドと言えば一般にはオスカーが代表種ですが(?)、パッケージの中心にはオスカーを押しのけてフロントーサが載っています。このエサは浮上性です。フロントーサがエサと一緒に空気を飲み込むことが腹腔に気体が溜まり体が浮き上がる病気の原因だとする説があり、沈下性のエサを選ぶ飼育者が多いと思います。カロテノイドやスピルリナの色揚げも隅の2魚種により有効かと。一般の肉食性中大型シクリッドには良いエサだと思います。このメーカーのエサの多くにはリンの含量が表示されていますが、カルシウムは表示がありません。この辺りはどういう事情なのでしょうか。(2008.10)
2009年、Herbivoreつまり草食魚にも対応したシクリッド用飼料が発売されました。うれしい沈下性です。蛋白質含量は(Konings博士が推奨する)低めで、原料的にも気になるポイントがほぼ押さえられており、凄く良いと思います。原料でただ一つ不明なのは「食用色素(青2)」を使用する意味です。単に見た目を植物的にするためか?これで魚も青くなるのか?なくても良いような気がしますが。形成については、「小粒」と表示するには粒が大きすぎるのではないでしょうか。パッケージに写真が載っている魚種はどれも消化器系のトラブルを起こしやすいと言われるもので、成魚でももっと小さい粒のエサを与えている人が多いと思います。以前の製品を見ると、メーカーとしてはその点を良く分かっている筈なのですが。エクストルーダーや流動層造粒法を使って1−2ミリの粒にして頂けることを願います。(2009.9)
実はこのタナゴ用(日本産淡水魚用)のエサは発売以来ずっと使用しています。モロヘイヤ、スピルリナ、海藻粉末、海苔と植物食性の魚に向いた原料に加えて、オキアミ、とうもろこし、イカミールと原料の種類が多いところが気に入っています。粒は小さく、消化管にダメージを与えにくいと思います。これは日本産淡水魚に限定せず、もっと多くの魚種を対象としても良いのではないでしょうか。価格もそれほど高くないので、長く売り続けて欲しいものです。(2024.11)
タンガニイカ・シクリッドには消化器官が弱くエサによるトラブルを起こしやすい魚種があります。それらの魚にはクリルなど尖った部分や固い部分のあるエサは与えずに、配合飼料中心で飼育した方が良いと思いますが、配合飼料でも導入直後や幼魚などの場合は念のため粒状ではなくフレークを与えることがあります。植物食以外の魚では結局のところ普通のフレークを使うことになります。実はこれだけで十分なのかも知れません。(2006.11)
ディスカス用は新製品です。特徴はオキアミ、シルクワーム、イカの無脊椎動物原料が多いことです。シルクワームとは蚕のことですが、確かに蚕の臭いがします。蚕と言っても広告によると使われているのは蛹です。繭を採った後の蛹ですが、これはアカムシなどの他の昆虫よりコストが低いのでしょうか。サナギ自体は古くから錦鯉のエサとして利用されていますし、養蚕地帯では人の食料でもありました。栄養価は高い筈です。2020年代に入って昆虫原料を配合したエサがいくつかのメーカーから発売されていますが、昆虫に拘るなら、まず冷凍アカムシではないでしょうか。ただ、魚種によってはトラブルを起こしやすいので、このような配合飼料があると助かります。しかし、昆虫に豊富な成分とその効果については情報が不足しており、是非ともメーカーの説明が欲しいところです。ディスカス用なので当然蛋白質含量が高くなっています。このメーカーは概してエサ粒の形成は非常に良いのですが、発売直後に買ったものは多少粉が出ており、クランブルの形成は他メーカーに一日の長があるのかと感じました。以前の細長い粒の方が使い易かったと思います。(2008.10-2024.11)
肉食魚用の沈下性のエサも販売時期で原料が少し違っています。私はこれをCyphotilapiaのメインのエサとして使用していました。Cyphotilapiaはこれをよく食べる個体が多く、また、水に入れたときの固さが絶妙で3-4cmの幼魚でも食いちぎるようにして食べます。繊細なイメージが魅力の種が多いタンガニイカ・シクリッドにあって、Cyphotilapiaは例外的に迫力系の魚ですので、肉食魚用のエサで大きくガッシリと育てるのもありだと思います。Tanganjika Cichliden本編に紹介している2種のHaplotaxodonのうち、H. microlepis "Kipili"の方はこのエサをよく食べます。体の大きさはほぼ同じですが、H. trifasciatusの方はもっと粒の小さいエサしか食べず、H. microlepis "Kipili"は粒の小さいエサは食べません。魚食性とされる種ですが、少し食性が異なるグループの魚なのでしょうか。(2006.11)
浮上性の方の肉食魚用のエサも優れていると思います。アラニンの添加による嗜好性の向上も本当だと感じます。Cyphotilapiaには通常沈下性のエサを与えますが、体が浮き上がる病気が酷くなると沈んだエサを拾えないことがあり、そうなってしまったら、浮上性を使用してみると食べられる場合があります。(2008.10)
私はグッピーを飼ったことがありませんが、グッピーの親魚と同じくらいの大きさまでのシクリッドの幼魚にはこのエサをよく与えます。高蛋白質のエサですが、私は、まだ小さい幼魚には成長不良や奇形の発生を防ぐために魚種によらず高栄養のエサを使用しています。使用原料的にも多種類の栄養成分が含まれているのではないかと思います。粒の大きさ堅さも幼魚には向いていると思います。私にとって美味しそうな臭いがすることも、このエサを好んで使用する理由の一つです。これも手元にある新しいものは原料の表示が更新されています。(2006.11-2018.6)
カラシン用のエサは同名の商品を90年代に一度購入し、粒表面の加工が悪く魚があまり食べないと感じて、その後は使っていませんでしたが、20年以上も経つと内容がすっかり変わっていることに気づき、買ってみました。今のものは、粒の出来がとても良いと思います。原料、成分は標準的で魚種を選ばず使って良いのではないでしょうか。表示の通り粒はやや大きめなので、ミクロラスボラなどの本当の小型魚には食べにくいと思いますが、シクリッドの幼魚などには良いと思います。(2019.8)
植物食性海水魚用のエサも、生菌剤配合のプロバイオティクス飼料です。海水魚の嗜好性に合わせたのか淡水魚用のエサにはあまり使われないイカミール、海苔、イカオイル、アサリエキスなどが配合されています。その他、発色を促すと思われる原料も含み、高級感もあります(価格も高い)。自分がよく食べるものではアオサに近い味で、ぬめりがあります。(2006.11)
従来の草食魚用のエサは、着色で緑色に見えるだけで実際の植物成分は気休め程度にしか入っていないものが多いと思いますが、この海藻主成分を謳ったエサは、本当に植物原料を多く使用しているようです。スピルリナではなく、海苔、わかめなど日本で入手容易な原料を使った点も革新的かも知れません。うれしいことに蛋白質含量も少なめです。しかし、海水魚用のエサはやはり値段が高い。多くの魚を飼っていると、これを主食にすることはとても出来ません。パッケージがアルミとプラスチックの部品で頑丈に出来ていて、ゴミの分別時の分解に苦労するのも買いたくない理由の一つです。魚のエサなど袋入りで十分ではないでしょうか。(2012.8)
ところで、植物食魚はエサの中のセルロースを利用するのでしょうか。単なるベジタリアンのヒトと、ウシやウマなどの草食動物の大きな違いは、後者が腸内細菌の働きでセルロースを分解して栄養分として利用できる点だと思います。魚ではどうなのでしょうか。
このメーカーのらんちう用のエサをシクリッドに与えている人は多いと思います。このエサ、同じパッケージで輸出もされているのでしょうか、英語での商品説明が載っています。保証成分(Guaranteed Analysis)の英語表記は日本語表記と同じですが、英語ではこれの他に通常の成分(Typical Analysis)が表示されています。つまり、最低保証値と(製造毎のバラツキの中で)代表的な実際の値の両方が表示されています。蛋白質(Protein)や油分(Oil)は後者の方がかなり高くなっています。原料(Ingredients)も英語の方が詳しく表示されており、また、添加物(Feed Additives)として4種類のビタミンの量が表示されています。他の製品も同様に出来ないものでしょうか。(2006.11)
マリーゴールドの花弁粉末には黄色系の色素ルテインの他、少量の赤系色素アスタキサンチンも含まれているそうです。メーカーによっては、たたき池などで本格的に金魚を飼う場合と普通の人(マニアでない人)が小さい水槽で飼う場合のエサを分けて考えているようです。後者の方は日光の当たらない室内でも鮮やかに発色させる必要があり、また、やたらと大きく成長させない方が良い筈です。とは言っても幼魚期に栄養を制限すると障害が出やすくなるので、そこは高栄養なエサを与えるということになります。成長段階に応じてエサを変えるというのは、水産養殖では常識のようですが、この金魚用のエサシリーズには(画像はありませんが)老魚用のエサもあるところが水産用と観賞魚用の目的の違いでしょうか。観賞魚でも美しい魚を作ることのみを目的とする人達とは別の人向けですね。熱帯魚用のエサ、特に植物性のエサは値段が高いため、多数の成魚には値段が安く成分的に大丈夫そうなこの金魚のエサを混ぜて与えています。原料には魚粉やスピルリナも含まれますが、筆頭原料は小麦胚芽で「強い子のミロ」から甘さと香ばしさをなくしたような味です。ぬめりがあって気持ち悪いですが、魚は喜んで食べています。ところで、熱帯魚用と金魚用のエサの値段の違いは何なのでしょうか、よく話題にされる不思議です。需要と供給とか、生産スケールによる単位当たりのコストの違いでしょうか。原料の表示が原料名のみで使用量が書いてないのがある種の誤解を招いていないでしょうか。粒状のエサの場合、金魚用はただ丸めただけの固いものが多いと思いますが、熱帯魚用は形も良くクランブル状やスポンジ状など咽頭歯のない魚種でも食べやすく加工されているところに生産コストの違いがあるのでしょうか。水産用、錦鯉用、犬猫用のエサと比べると、金魚用も熱帯魚用も小さい容器に小分けして店頭に並べることに相当のコストが掛かっているとしか思えません。金魚も熱帯魚もヘビーユーザーは水産用に流れて行く道理です。(2006.11)
このシリーズの金魚のエサをシクリッドに使用している人も多いと思います。私もこれが売り出された瞬間、ピンと来るものがありました。魚食性や動物プランクトン食性の魚に与えていました。これも成長段階に応じて3種類あり、シクリッド用にも是非採用して欲しい製品構成です。袋にはBreeder Preferredと書いてあり、コンセプトも明確です。粒の成型が奇麗なのも使いたくなる理由でしょうか。生菌剤配合のプロバイオティクス飼料です。成分の表示は上のらんちう用と同形式で良いのですが、手元の袋に記載のビタミンE量は異常に高く、間違いではないでしょうか。(と書きましたが、その後の新しいパッケージにはビタミンC、Eが多量に配合されていることが文章で明記されており、間違いではありませんでした。)老化した魚に与えると艶が戻ると感じるのは気のせいでしょうか?稚魚用のエサは粒の型成が特殊な製法によることが強調されていますが、これは確かに良く出来ていると思います。(2006.11-208.10)
後で発売された「特級色揚」の方も粒の形成が良いと思います。カロテノイド、スピルリナ、マリーゴールド色素、ファフィア酵母と色揚げ成分が多いため、魚種によっては不自然な発色になるのかも知れませんが、多くの熱帯魚にはこの金魚用のエサが十分使えるのではないでしょうか。(もっとも価格は熱帯魚用に匹敵していますが。赤系ディスカスはこのエサを食べるんでしょうか。)特記すべきはファフィア酵母ですが、私は不覚にしてこのパッケージを見る迄知りませんでした。(2008.10)
金魚色揚用の浮上性のエサも販売されています。タンガニイカ・シクリッドには基本的に沈下性のエサを使っていますが、老化が始まってやや浮き気味になった個体など、水槽内の力関係で沈んだエサが巧く獲れない魚を餌付かせると良い結果が得られることがあります。どうも、このシリーズの色揚げエサには、老化した魚の色艶を回復させる効果があるような気がしますが、どうでしょうか。原料として2番目にでんぷん類が記載されています。粒の見た目から予想すると、浮上性に造粒するための成分なのでしょうか。成分として、灰分(かいぶん)が20%以下とあります。「以下」なので、もっと少ないロットもあるのでしょうが、これはかなり多いと思います。灰分とは主にミネラル分のことで、骨の主成分であるカルシウムとリンも含まれます。観賞魚のエサにはごく稀にカルシウムやリンの含量が表示されているものがありますが、合わせて2-3%程度と思われるますので、灰分中の他の成分が気になります。使用原料として添加されているミネラル類の他にかなり含まれていることになると思います。(2019.4)
コストパフォーマンスの良い大袋入りのシリーズも発売されました。らんちうの育成用のエサですが、グラム当たりの値段が水産用に匹敵するほど安く、粒も小さくてタンガニイカ・シクリッドにも使えるのではと思い買ってみました。らんちゅう用のエサは、水産用と同じく、成長効率(増体効果)を謳い、蛋白質含量の高いものが多いようです。タンガニイカ・シクリッドなどの魚種では、金魚とちがって、野生個体のような自然な(スマートな)体型に育てたいと考える人が多いと思いますので、もしかすると向かないかも知れません。しかし、成魚を多く飼っている水槽では、水やフィルターに負担がかかるのを心配してエサを控えめにしていると、魚が痩せてしまうことがよくあります。このようなときに、増体効果の高いエサを使用してはどうでしょうか。(2014.4)
らんちうの増体用のエサというものも出ています。蛋白質と並んで脂質の含量も高くなっています。メダカ用の成長促進を謳ったエサなどでも脂質含量の高いものがありますが、成長(体長を伸ばす)と増体(太らせる)に対する脂質含量の影響はどうなのでしょうか。また、同量の異なるエサを与えたときの魚体重増加の違いの実験データが示されていますが、現実的な使用法としては、高蛋白高脂質のエサを少なめに与えるのと通常のエサを多めに与えるのとでは違いがあるのか、気になります。育成用と増体用では原料が異なっています。増体用では小麦胚芽でなはくグルテンミールとなっています。グルテンとは小麦などの蛋白質で麩の主成分ですが、昔は魚のエサと言えば麩でした。このエサでは、形成上のつなぎなのでしょうか、他の植物成分(大豆ミール等)との兼ね合いでアミノ酸組成のバランスを取るためなのでしょうか。シルクワームミール(カイコ)も栄養価と嗜好性のどちらの目的なのでしょうか。フィッシュミールの他に加えられている発酵魚粉は消化吸収効率が高いそうです。育成用、増体用とも微生物の発酵抽出物も使用され、近年の研究成果が盛り込まれた感じがします。(2018.6)
らんちうの良消化性のエサ、小麦胚芽が筆頭原料になっています。胚芽は芽になる部分で、小麦粉になる胚乳部分と比べて蛋白質含量が高いようです。繊維質が多いとされる小麦ふすま(米の糠に相当する部分)や米ぬかなど、ヒトの健康に良いと言われる原料も配合されています。成分としては、おそらく炭水化物もかなり多く、蛋白質が少なめになっています。ヒトの食品と違って、魚のエサには炭水化物含量の表示がありませんが、なぜでしょうか。シクリッド用には蛋白質含量が低い餌をすすめる洋書もあり、特に草食性の強い魚種では、これで良いのではないでしょうか。小麦胚芽が主原料のエサは以前にもありましたが、草食魚でもやはり、魚粉が主原料のエサよりも嗜好性が少し落ちるように思います。フンが少ないことを謳った他のエサよりも、こちらの方がフンが少ないように思います。クエン酸を含む梅エキスも配合されています。「おなかのはたらきをサポート」と説明されています。クエン酸はエネルギー産生に関わるクエン酸回路という生体内の反応系に使われるため、疲労回復に良いとも言われますが、どうでしょうか。ミネラル分の吸収を助ける効果もあると言われます。梅エキスの効果については確かめようがありませんが、小麦胚芽使用や低蛋白含量、フンが少ない感じなど、良いエサだと思います。(2019.8)
このシリーズには、色揚げ用もあります。スピルリナ、カロチノイドが配合されています。廉価版ですので、上の方で紹介したもの程は効果がないと予想していますが、この程度が適量な場合もあるのかも知れません。(2024.10)
私はここ20年以上、年間10kg弱のエサを使用していますので、これらのコストパフォーマンスの良い製品はとても助かります。使用量がもっと多い人も大勢いると思いますが、観賞魚用でなく水産用のエサを買ってしまう人がかなりいると思います。(2024.11)
稚魚用は稚魚用でも、成長段階に合わせて3サイズ用意されているのはとても良いと思います。粒の製法が特殊で、実際に良く出来ています。脂質含量が少ない点は、稚魚をやたらと太らせない方が良いという考え方でしょうか。(2024.11)
教材用の浮上性のキンギョのエサ、原料は多種類使われていて栄養バランスは良いのかも知れません。私は基本的には沈下性のエサを使っていますが、水槽内の魚の力関係や衰弱のため沈んだエサが摂れない個体が出ると浮上性のエサを使います。このエサは蛋白質含量は少ないのですが、痩せた魚がまた太ります。値段も安く、これだけでもいいのかも知れません。(2006.11)
ファフィア酵母(Phaffia rhodozyma)
1960年代から70年代初頭、Dr. Herman Phaff により日本とアラスカの落葉樹の樹液から分離された酵母(イースト)。アスタキサンチン(カロテノイドの項目参照)を多量に含む酵母として1976年、Andrewes, Phaff & Starr の論文報告があります。分類と記載には少しややこしい点があったようで、同年の Miller, Yoneyama & Soneda の論文で現行の属に確定したようです。1属1種。属名は発見者に因み、種小名は発酵で赤い色素(アスタキサンチン)を産生することを表すようです。アスタキサンチンはヘマトコッカス(Heamatococcus)属(これをエサに配合しているメーカーもあります)などの藻類に多く含まれ、甲殻類の体内にも蓄積されていますが、陸棲の酵母では珍しいと思います。調べてみると他の非海産微生物でも産生する例はあるようです。菌体重量あたりの含量ではヘマトコッカスに分があるようです。ファフィア酵母菌体内ではアスタキサンチンが活性酸素の無害化に役立っている(抗酸化作用がある)そうですが、なぜ特にこの酵母だけアスタキサンチンが多いのか私には分かりません。培養が容易なため、サケ、ロブスター、 卵用の鶏など色揚げ用のエサへの配合が早くから検討され、80年代にはアスタキサンチン産生量のより高い変異株も報告されています。最近では抗酸化作用に注目して、色揚げ以外の目的でいろいろな飼育動物のエサに配合されているようです。ファフィア酵母からアスタキサンチンを精製する場合は、細胞壁の破砕に手間がかかるようですが、魚の消化管内では細胞壁も消化されているのでしょう。
カロテノイド(カロチノイド)
植物や光合成を行う微生物に多く含まれる色素で、いろいろな種類がありますが大体の分子構造はどれも似ています。これも分子の構造を説明することは難しく、ここで意味があるかどうかも分かりません。ω3、ω6脂肪酸の項目で炭素鎖というものを説明しましたが、まず、炭素原子が18個直鎖状に繋がり一つおきに二重結合がある構造を想像してください。途中4カ所に枝があり、その枝は炭素原子が1個だけとその周りの3個の水素原子で出来ています。別に炭素原子6個を環状につないだものを考えます。いわゆる亀の甲ですが、一カ所だけ二重結合になっています。先程の炭素鎖の両端に一個ずつこの炭素環を結合し、その炭素環の周りに炭素原子1個と水素原子3個で出来た枝や、酸素原子、または酸素原子1個と水素原子1個で出来た枝を適当に結合させたものが大体のカロテノイドの構造です。酸素原子を含まないカロテノイドがカロテン(カロチン)で、その代表であるβカロテンは大ざっぱな言い方をすると生体内で真ん中から2つに切れてビタミンAになります。酸素原子を含むカロテノイドをキサントフィルと言い、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、ルテインなど観賞魚の話題にでてくる色素がこのグループに含まれます。魚や他の動物でも体表などに蓄積されて黄色や赤色を呈します。全てではないと思いますが、これらは生体内ではある種類をもとに他の種類を合成することが出来るようです。また、魚の卵にも多く含まれていて、親魚のカロテノイド摂取量が卵の孵化率などに影響するようです[参考文献(3)]。過酸化抑制作用もあり脂肪酸の過酸化を防ぐ機能もあるそうです[参考文献(3)]。Tanganjika Cichliden本編のCyathopharymx foae "Moliro"の繁殖記録のページとCyathopharymx foae "Mbita"のページにC. foaeの卵の画像を掲載しましたが、黄色です。これは多分、ルテインというマリーゴールドやとうもろこしに多く含まれるカロテノイドの色だと思います。ちなみにCyphotilapia frontosaの卵は灰白色です。同じタンガニイカ・シクリッドでも魚種により卵中のカロテノドはかなり異なるのではないでしょうか。また、そのときのエサの成分により卵の色は変わります。
プロバイオティクス
乳酸菌やビフィズス菌などの微生物(これらは細菌)を経口投与などにより生きたまま消化器官内に送り込み、健康や成長等に良い効果を得ようとすることを一般にプロバイオティクスといいます。微生物は一般にある一種類が多く生存・増殖している環境では別の種が増殖し難くなります。種によっては積極的に他種の微生物を攻撃するものもあるようです。これを利用して消化器官内の有害な細菌の増殖を抑えることが出来る可能性があります。また、微生物細胞自体かその代謝産物が宿主(微生物が入り込んでいる動物)の免疫系を活性化することがあるとも言われます。微生物は自らが栄養分を吸収するため消化酵素を分泌して周りの有機物を分解しますが、その分解物が宿主の栄養吸収にも都合が良い場合があります。代表例としては(プロバイオティクスではなく普通にいる腸内細菌ですが)、草食動物は腸内細菌が植物の細胞壁のセルロースを分解した後にその分解産物を吸収します。さらに、微生物は自ら生きるために様々な物質を生合成しますが、これが宿主に吸収・利用されることもあります。特定のアミノ酸やビタミンなどを腸内細菌の合成に依存している動物の例はよく知られています。このような機能を期待して生菌剤(生きた微生物を腸内に届きやすいように製剤したもの)が配合されているのがプロバイオティクス飼料です。観賞魚用としては錦鯉用には以前からあったと思います。
容器の説明によると上に挙げたメーカーでは、独自のバチルス(Bacillus)属の菌株を配合しているようです。参考文献(3)によると、畜産用にはプロバイオティクス製剤として、納豆菌、枯草菌(これら2つはバチルス)、酪酸菌、ビフィズス菌、乳酸菌などが各製薬メーカーなどから発売されているそうです。参考文献(3)の時点では、バチルス・セレウス トヨイ(Bacillus cereus var. toyoii)という株が養殖水産動物用飼料添加物として正式に認可されているそうです。ところで微生物の種や株を学名で紹介することは非常に誤解を招きやすいことです。微生物の場合、属名、種小名までが同じであっても、その中に様々な株があって、毒性の有無や特定の機能については株単位で全く異なるのが普通です。例えば、大腸菌Escherichia coliは誰の腸内にも大量に生息していますが、それは基本的には無害なものです。同じEscherichia coliであっても、O-157など一部の株にのみ毒素を作る遺伝子があります。バチルス属というと納豆菌、枯草菌や白い粉末としてバイオテロに使われた(?)炭疽菌も含まれますが全くの別物と考えて良いものです。また、バチルス・セレウスにも毒性をもつ株があり食中毒の原因になったりするようですが、間違ってそれが紛れ込むというようなことはありません。
アミノ酸
1個の炭素原子の周りにアミノ基NH3、脂肪酸のところで説明したカルボキシル基COOH、水素原子H、そしてもう一つ様々な種類の枝構造が結合したものが一般的なアミノ酸の構造です。アミノ基と別のアミノ酸分子のカルボキシル基が結合する形でいくつものアミノ酸が線状に繋がったものがペプチドと蛋白質です。ペプチドは比較的短くただアミノ酸が繋がっただけですが、蛋白質はある決まった形に折り畳まれて生理的な機能を果たします。通常、蛋白質を構成するアミノ酸は20種類です。この20種類は上で「もう一つ様々な種類の枝構造」と表現した部分(蛋白質になるとアミノ酸残基の「側鎖」という)の構造が異なります。これらは、生体内で合成できず食物中の蛋白質の構成成分として摂取する必要のある必須アミノ酸と、生体内で合成出来る非必須アミノ酸に分かれます。食べ物の種類によってアミノ酸の量のバランスが異なり、また、生物によって必要とするアミノ酸の量のバランスが異なりますので、これを一致させると効率の良い飼料になります。このバランスを合わせるために特定のアミノ酸をエサに添加することは有効ですが、アミノ酸にはその臭いと味で魚の摂食を促進する効果がありますので、通常、鑑賞魚のエサにアミノ酸を添加する目的はどちらかというと摂飼刺激のためだと思われます。魚種により刺激を受けるアミノ酸が異なるようです[文献(2)]。水産では20種類のアミノ酸とは別のタウリンやベタイン(厳密にはアミノ酸とは少し違います)も同様の目的に使用されるようです[文献(2)]。
2011年にはブームもあってか、メダカ用のエサの新製品が各社から発売されました。この産卵・繁殖用のエサは、睡蓮鉢のメダカに与えてみましたが、効果があったと思います。この配合飼料のページは2006年に始めましたが、そのときこのページの上の方で、魚卵はコレステロール含量が高く、魚のエサの原料で高コレステロールである全卵(鶏卵)とイカ(イカミール)を大量に含むエサに産卵促進の効果があるか否か、興味がもたれますと書きました。このエサには、卵黄粉末、イカミール、オキアミミール、イカオイルなど、高コレステロールの成分が含まれています。(2012.5)
改良メダカブームが続く中、次々と発売された用途別のエサは、メダカの他にコイ科の小型魚やシクリッドの稚魚にも与えています。メダカのエサの多くは、水面にそっと乗せるといつまでも浮いていますが、ふやける前にかき混ぜるとさっと沈み、粒の性状もとても良いと思います。色揚げ用はカロチノイドの含量が多いのが親魚用との主な違いでしょうか。フィッシュミールよりもオキアミミールの方が多く、卵白粉末やイカミールを使用して、アミノ産バランスも考慮した高栄養になっているのでしょうか。高蛋白質に加えて高脂肪になっていますが、体重増加ではなく体長やヒレの伸長、体高の増加に対する脂肪の効果はあるのでしょうか。ヒトの場合、身長を伸ばすにはまずカルシウムと言われますが、魚ではどうなのでしょうか。エサのカルシウム含量は製品により表示の有無がありますが、実はかなり研究されており[参考文献(4)]、単純に多ければ良いと言うことではないようです。リンとのバランスが重要であり、また、多すぎると他の微量元素の吸収を阻害して成長に悪影響が出るようです。また、カルシウムは水中から効率良く吸収できるそうです。(2018.6)
教材用のメダカのエサ。メダカは育ち、繁殖もしています。原料を見る限り、これだけで十分とも思いますが、脂肪分が少なく、レベルの高い観賞用の育成や繁殖にはやや栄養不足ということでしょうか。(2024.11)
生まれたての稚魚はエサが悪いと育たないことがあると言われており、水産学でも稚魚用のエサが研究されています[参考文献(1)]。稚魚には、ブラインシュリンプ、ワムシ、小さい魚種ではインフゾリアなど天然のエサが薦められることが多く、私もそれらを併用していますが、稚魚用の配合飼料のみでも育つ魚が多いと思います。熱帯魚の稚魚用のエサは基質産卵性のシクリッドの小さい稚魚には良いと思いますが、私が飼っているマウスブルーダーでは稚魚が大きく、エサ粒が小さすぎると感じています。もちろん、初期には食べてくれます。(2006.11)
メダカ、キンギョの稚魚用で値段の安いものは、粒が少し大きめ(ロット差があるかも知れません)で、コイ科の稚魚の口に入るのかやや不安です。粒径には多少のバラつきがあり、砕けたものも混在するので、平均よりも小さいものだけが食べられているのかも知れません。値段の高い方は少し粒が小さいように思いますが(表示0.2mm以下)、まだ大きすぎるように思います。このメーカーは、生物実験に使うゼブラフィシュ(ダニオ)の稚魚用にもっと粒の小さいものも作っていますので、事情は把握している筈なのですが、それを熱帯魚飼料で販売しないのでしょうか。(2008.6)
稚魚用のエサには、1日5回以上与えるのが理想と表示されています。このメーカーに限らず、成魚用でも1日2回が常識となっていますが、これは昨今の通勤通学の事情も考えると無理なことを言っているのではないでしょうか。入門書などのこの文言のため、責任感のある人ほど魚を飼うことに二の足を踏むようになっていると思います。成魚のエサは毎日でなくとも可、稚魚は1日1回でも育つと思います。趣味で魚を飼う多くの人は、最高の成長効率を必要としません。少ない給餌回数で育つ稚魚用飼料の開発を期待します。
市販飼料 その8
アユの養殖用のエサ(水産用飼料)です。メーカー出荷時の包装は20キロ入りだと思いますが、金魚愛好家の間では定番品らしく、金魚専門店で小分け包装されたものが概して低価格で流通しています。シクリッド飼育者による評価も概して高く、コストパフォーマンスの点ではかなり優れていると言えます。私は食べるアユの体色をあまり気にしたことがなかったのですが、黄色がのっているものが良いらしく、色揚げ成分としてマリーゴールドが配合されています。クランブル状で海藻の臭いが感じられる低脂肪のエサです。アユは川底の石に着いた藻類を食べると言われますが、それは主に成魚の食性で、成長期の幼魚は主に昆虫などを食べているそうです。このエサは草食魚に限らず使えるのではないでしょうか。各サイズがあり、小型魚と中型魚で使い分けています。表示はされていませんが、ビタミン類も添加されているようです。(2014.5-2024.11)
上とは別メーカーのアユ用水産飼料です。原料を見ると、オキアミ派(魚粉派に対して)の人にはお薦めでしょうか。こちらは初期飼料と言うことで、粒径は最大の4号でも中型魚の親魚には小さすぎると思います。魚油、レシチン、ベタインなどが恐らく脂質バランス調整や摂餌促進のために配合されているようです。水産用飼料には炭酸カルシウムやリン酸カルシウムが表示されたものがありますが、これはカルシウム補充のためでしょうか、それとも何か他に目的があるのでしょうか。リン酸やカルシウムは骨の成分ですが、多ければ良いというものでないようです。リンとカルシウムのバランスや他の微量元素吸収の阻害の問題など難しい調整が必要なようです。グアガムと言うものが配合されていますが、これはグア豆から抽出される多糖類で、粘結剤として使用されているようです。
海水魚用のエサ(水産用飼料)です。これもメーカー出荷時の包装は10キロ単位だと思いますが、金魚専門店などで小分け包装されたものが流通しています。同じ銘柄で各サイズがあり、大粒のものと小粒のものでは、粒の成型、原料成分とも違うようです。主に肉食よりの淡水熱帯魚に使用している人が多いようです。海水魚用のエサを淡水魚に使用すると何か問題があるという話はあまり聞かないように思います。添加された原料として、植物性ガム物質(粘結剤)、ベタイン、パラコッカス菌体末、リンゴ抽出物などが表示されています。(2018.6)
パラコッカス菌
パラコッカス菌もアスタキサンチンを多く含むようです。微生物にはそれ以外にも様々な微量物質が含まれていて、それらの生理活性が研究されていますので、色揚げ以外の効果もあるのかも知れません。菌体末とは細胞壁を破砕してあるという意味なのでしょうか。
市販飼料 その9
ホームセンターで売られている金魚用のエサです。納豆菌、乳酸菌、酵母菌に加えて、アスタキサンチン、スピルリナの表示があり、押さえるところは押さえた感じです。粗蛋白質、粗脂質の含量が少なく、成魚などをもう大きくしたくない状況で使用すると良いかも知れません。有名メーカーも含めた最近(この稿は2006年から書いていて、この部分は2018年)のエサの傾向として、大豆や小麦胚芽、(このエサには表示がありませんが、ものによっては、トウモロコシ)などが使われていることが多いようです。これらは食品工場で何かを作ったときの搾りかすだと思われます。油や水溶性成分(汁)を搾った残りの固形物は蛋白質がまだ多く残っているので、近年コスト高となった魚粉をこれで一部代替しているのだと思います。植物原料はアミノ酸バランスが魚粉とは異なるため、完全な代替はせず、また、アミノ酸組成の異なる植物原料の組み合わせでバランスを取っているようです。(2018.6)
市販飼料 その10
これは「配合飼料」と言うよりもスピルリナ(藍藻類、シアノバクテリアの一種)の「乾燥飼料」でしょうか。藻類食の魚に補助的に与えるのに良いのではないでしょうか。2つは当然別メーカーのもので、左は観賞魚用の顆粒で、つなぎに粉糖とデキストリンが使われています。デキストリンとはデンプンがある種の分解を受けたものですが、回転寿司店によくある粉末の緑茶を飲むと、普通のお茶とは違うほんのりと甘い粉っぽい味を感じることがあると思います(?)。あの成分がデキストリンに近いと思います。右は人用の粉末ですが、スピルリナ以外の原料は使用していないようです。成分の表示が両製品ではかなり違っています。(2009.9, 2024.11)
エサ粒の性状
以上、原料と成分についての文章が多くなりましたが、配合飼料の質として粒の性状も大切な要素です。食べやすい(多少食べ難い方が良い場合もあるが)形、魚に合った固さ、微量成分の水への溶け出しの少なさ(摂餌刺激物質は溶け出した方が良い場合もあるが)、エサ粒自体の水への溶解速度、消化管内での消化速度、空気の抜けやすさ、浮遊・浮上・沈下性などです。タンガニイカ・シクリッドでは、消化管への負担が気になります。また、堅い錦鯉用などを流用すると口に含んでも吐き出してしまい、よくふやかしてからしか使えないことがあります。原料の選択は良くても粒の成型の技術がいかにもまずい飼料もあり、理想的な性状の粒の作製は非常に難しい技術なのだと思います。
エクストルーダー
エサの生産現場(工場)は見たことがないのですが、私がタンガニイカ・シクリッドに良いと思うエサは、どうもエクストルーダーと言う装置で作られたもののようです。練ったエサの原料を高い圧力で圧縮して、細い穴から押し出すと、ひも状になって押し出されますが、外へ押し出された時に急激に圧力が下がるため、水分と溶けていた気体が気化して泡になり、乾燥させると空気を含んだ軽くて柔らかい固形に形成できます。発泡の程度が違いますが、例えば、お菓子のカールの様なものです。押し出されたひも状のエサを乾燥前に細かく切ったものを、エクストルーダー・ペレット(エキスパンディド・ペレット): EP、乾燥してから砕いたものをエクストルーダー・クランブル:EPCと呼ぶ様です。クランブルは、篩にかけて大きさが揃えてあります。エクストルーダーで作ったと思われる餌でも、水に浸けた時にいつまでもカリッと硬いものもある様なので注意が必要です。高圧からの急激な減圧による発泡がエキストルーダーの原理ですが、練った原料を高圧にはせず、ただ穴から押し出して成型したペレット(ドライペレット: DP)やクランブルもあります。これらは内部に気泡を含まず、硬くなります。水産用の飼料では、多くの製品でこれらの製法が表記されていたり、商品名に入っていたりしますが、観賞魚用では曖昧なようです。分かる人が少ないからだと思いますが、裏に小さくでも書いてもらえると助かります。エキストルーダーでは、高温高圧で栄養成分が分解されてしまいそうですが、ビタミンなどへの影響も調べられていて、ほぼ問題がなかったり、何らかの安定化などの工夫がされていたりするようです。また、蛋白質などは部分分解によって消化吸収が良くなる場合もあるようです。
顆粒と流動層造粒法
シクリッドの稚魚や小型魚には小粒の顆粒状のエサを使っていますが、これにも硬軟があります。タンガニイカ・シクリッドに合う硬さの顆粒状のエサの多くは、流動層造粒法と言う方法で作られているのではと思います。専用の装置で、エサ粒を気流に乗せて撹拌しながら、水に溶いた原料を噴霧して振り掛け、粒を成長させる方法です。これより古くからある別の製法では、容器の中で原料を転がすことによって造粒しますが、こちらは硬いエサが多いのではないかと思います。
フレーク
容易に想像がつきますが、フレークは水に溶いた原料を薄く伸ばして乾燥させ、砕いて作ります。柔らかいため消化器の弱い魚種にも向いています。しかし、細かい破片が浮遊して水が汚れやすく、同時に、魚が食べた量と水中に拡散してしまった量の見当が付けづらいです。また、いろいろな大きさの破片がふんわりとあるので絶対量も分かりにくく、私はあまり好きではありません。
給餌量
給餌量はどのくらいが適当なのか、これは私には未だによく分かりません。魚は1日に体重の1−5%のエサを食べるそうですが、1%と5%では5倍の差があります。結局、その都度手探りでやっています。食べたエサの栄養分が全て吸収される訳ではなく、給餌量が多い程ただフンになってしまう割合が多くなり、給餌量が少なければ吸収効率が上がります。したがって、エサの量に比例して魚が成長する訳ではありません。また、エサを減らせば、減らした以上にフンが減ることになります。平均では熱量(カロリー)にして20%位が吸収されずに排泄されているようです[文献(1)]。群れで飼育している場合、一回のエサの量を減らすとエサを摂れない個体が出やすくなります。エサの回数を減らす方が良いかも知れませんが、極端なことをすると魚の健康に影響が出るかも知れません。やはり幼魚と成魚の栄養要求性の違いを考えたエサが欲しいところです。
今後の期待
金魚用では発育段階に合わせた栄養構成のエサが主流になりそうですが、シクリッド用にも是非欲しいです。植物食性、動物食性に分けて幼魚用、繁殖の親魚用、老化防止用の都合6種類が理想です。売れれば問題はありませんので、シクリッドにもっと人気が出れば夢ではないと思います。近年発売された金魚用の強力な色揚げ効果のあるエサを老化の見られる魚に与えると、体表の色艶が回復するように思います。綺麗な状態を長く維持するアンチエイジングは、食用水産にはそれほど必要なくとも、観賞魚には是非必要な効果ではないでしょうか。観賞魚専門のメーカーに開発を期待したいところです。シクリッド飼育で厄介なのが、ポップアイ、腹水病などエロモナス菌が原因で起こる病気です。β-グルカン、ラクトフェリンのような魚の免疫機能を活性化する成分、病原性の細菌を除外するプロバイオティクス技術など、抗エロモナス菌に焦点をあてた開発を期待します。(追記:その後、最近の広告では、従来フンの分解などを謳っていたプロバイオティクスにより、細菌性の病気の予防効果があるとされています。)